漏水事故多発中!貸主保険が支出を抑える鍵
ここ最近、経年した設備の交換が未施工というお部屋で、配管からの漏水事故が多発しています。
今回は発生した漏水事故の例などをご紹介しつつ、事故に備えて貸主ができることについてお話します。
賃貸用物件が経年すると共に・・・
日本の高度経済成長と共に人口の増加、それに伴い賃貸用マンション・アパートが次々と建ち並び、活用されてから50年以上が経過しました。
年数の経過と共に建物は内外共に劣化が進みます。
入居者の入れ替えごとにリフォームを行われていると思いますが、ユニットバスなどの水回り設備や各配管(給水・給湯管など)の交換等は行っていらっしゃいますか?
漏水事故の例 その1
漏水事故を一部ご紹介します。
ある日、天井から漏水が発生しました。
入居者からの連絡を受け、上階の室内を目視で確認しても異常なし。
しかし漏水が止まる様子はなく・・・。
漏水しているのはワンルームのアパートの居室部分の天井です。
キッチンやユニットバスは部屋の入口側にあり、そこには水回り設備はありません。
しかし、居室の天井が漏水しているのです。
そこで上階の漏水箇所の真上にあたるフローリングの床部分を開口してみました。
すると部屋の入り口側にあるキッチンやユニットバスなどの水回り設備と、ベランダにある給湯器とを繋ぐ給湯管に穴があき、そこから漏水していたことが判明。
漏水事故の例 その2
別の事故の例もご紹介します。
こちらも同じく天井からの漏水です。
漏水の真上は上階の部屋の電気温水器にあたる部分。
電気温水器の排水管を確認すると、内部が錆び付き、内径がほとんどなく排水出来ない状態で、排水できなく溢れ出た水が漏水の原因であったことが判明しました。
しかし大型の電気温水器が邪魔をして、動かさない限り改善策を講じることができません。
電気温水器が古かったため、新規交換を前提にまず電気温水器を撤去することに。
撤去を行うため、まず電気温水器内に溜まっている水の水抜きを数時間かけて行い、その後撤去。
翌日、朝から電気温水器に繋がる配管の交換工事。
さらにその翌日、新規電気温水器の取付工事、という流れでした。
漏水事故は緊急に早急な対応で
どちらの事故も、上下階共に入居中に発生したため、緊急対応が必要となりました。
まず上階の漏水の発生原因を突き止め、漏水を止める工事。
劣化した配管や設備の新規交換工事を行います。
漏水が止まったことが確認できてから、次は下階の被害部分の復旧工事です。
工事業者が部屋へ立ち入りますので、上下の入居者には仕事を休んで頂き、工事の間の立ち会いを協力頂きます。
漏水発生から原因を突き止めるまでが第一の山場。
突き止めた原因がその部分だけであることを願いつつ、必要な部材をできる限り用意した上で一気に修復工事を行います。
その後漏水が本当に止まったか待機して様子をみます。
止まったことが確認できなければ上階の床をふさぐことも、新しい設備を設置することもできません。
上階の入居者は水の元栓を閉めてしまうため、キッチンもトイレもお風呂にも入れず、通常の生活ができないため、漏水を止めるまでに数日間を要した場合、別の場所へ避難して頂くことになります。
下階の入居者は被害にあった家具・家電の状況を確認。
上階同様、被害がひどく通常の生活が困難である場合、別の場所へ避難します。
実家や友人宅などへ避難できない場合、ビジネスホテルなどの有料宿泊施設への避難となります。
漏水が止まったことが確認できたところで、元の生活に戻れるように上階と下階の部屋を復旧工事。
漏水の原因をつきとめ、部屋に戻れる程度まで室内工事が済むまでの間は、非常に緊張状態の数日間です。
上階の入居者は不安で部屋の使用をためらったり、下階の入居者は被害を受けたショックと、仕事を休み工事のために時間をとられることへの不満でイライラピリピリしています。
入居中の漏水トラブルにかかるコストは甚大
入居中の漏水トラブルは、たとえユニットバスのように大きく高額な設備であっても、配管が原因となると設備自体を撤去しなければ工事ができません。
また新規交換する設備によっては納品に時間がかかる為、通常通り生活できない期間のホテル代なども必要となります。
漏水を止め、設備交換を行い、室内の復旧工事、被害を受けた下階の復旧工事、そしてホテル代・・・。
このようにかかる費用ですが、実は、借主が加入する保険にはその補償は含まれていません。
損保ジャパン「すまいの保険」の2018年度個人火災総合保険における保険金支払い実績の中の事故件数ランキングというものがあります。
1位 水災・風災・雪災
2位 不測かつ突発的な事故(汚損・破損など)
3位 漏水などによる水漏れ
4位 建物外部からの物体の落下・飛来・衝突など
5位 落雷
6位 盗難による盗取・損傷・汚損
7位 火災
借主は「借家人賠償責任保険」へ加入しています
賃貸借契約を締結する際、不動産会社は借主に対し住宅保険の加入を義務付けています。
加入に対し特に重要で必要な補償は「借家人賠償責任保険」と言われるものです。
これは大家さんから借りている建物に与えた損害を賠償するための補償になります。
主に「火災、破裂、爆発、水漏れ」などで、借主がこれらの事故を起こした時に補償されます。
それ以外の場合は、故意の事故などは対象外となります。
補償される例でいえば、「入居者が水道を出しっぱなしにしたことが原因で下階に漏水が発生」などの事故です。
借主・入居者に過失がある場合「借家人賠償責任保険」で対応することができます。
しかし、借主の責任ではなく建物に損害が発生した時にかかった事故の費用は全て貸主負担となります。
貸主は「施設賠償保険」を
そんな時に役立つ可能性がある保険が「施設賠償保険」です。
これはその名の通り、その施設(つまり賃貸用マンション・アパート)所有者の責任とされる損害賠償事故(対人賠償事故、対物賠償事故)を補償します。
専有部分での給水破損など借主の過失ではなく所有者の責任になる場合には、貸主が加入する「施設賠償保険」でカバーします。
事故が発生した時に保険を確認して頂くと、建てた当初に加入された保険を更新・継続され、火災のみが補償の対象で「施設賠償保険」には未加入というケースが多々あります。
とはいえ「施設賠償保険」に加入していても、事故ではなく経年が原因である場合、漏水箇所の設備改修工事代は補償されず、階下の損害・復旧のみが補償対象となる場合がほとんどです。
全て補償されるものではありませんが、火災のみが補償される保険よりも、建物の経年を考慮すると加入する価値は高いものと思います。
更新工事は計画的に
以上のことから、建物の経年からある日突然発生する漏水事故に備えるための対策をご検討ください。
まず第一に、室内設備の更新工事のご検討をおすすめ致します。
入居中の更新工事は難しいため、入居者が退去した後がベストタイミングです。
入居者が退去するタイミングは予測できません。
理想は築20年を過ぎたら工事をお考え頂くと良いでしょう。
築25年~30年を超えると事故の可能性は非常に高まります。
単身者向けの賃貸物件は、入居者入れ替えは数年単位の傾向ですが、快適な住み心地であり、入居者に結婚や転職等の人生のイベントがなければ、単身者向けの賃貸物件であっても10年15年と入居が長期化する可能性はあります。
ファミリー向け賃貸物件は、基本的にお子さんの成長に合わせて賃貸物件を選びます。
お子さんの学校の入学・卒業、または独立などをキッカケに引っ越しを検討されるため、はじめから「賃貸期間は長期になるだろう。」とお考え頂いた方が良いでしょう。
単身者向け、ファミリー向けに限らず、築20年を過ぎてから入居者の退去があった時は、設備の更新工事を計画されておくことをおすすめ致します。
保険は早めに補償内容の確認を
まず現在加入されている保険の補償内容のご確認ください。
「施設賠償保険」に加入しているかどうか。
どんな場合に補償してもらえるのか。
入居中に発生した事故にかかる費用は、入居者が退去した時に行う改修工事にかかる費用とは比になりません。
入居中は入居者の都合に合わせて施工します。
「仕事の都合でどうしても1日休みを取れない。」と言われてしまうと、1日で終わる工事を数日間にわけて行うことになる場合もあります。
分割して施工するために、その都度、工事のチリや埃がかぶらないように室内をしっかり養生します。
職人の人件費も日数分かかるので、工事代は非常に割高になります。
そして室内が通常に戻るまでの仮住まいの費用等がさらにかかることも・・・。
設備の更新工事は今すぐできませんが、加入されている保険の確認とその見直しであれば今すぐ行うことができます。
事故発生時の損害を抑える手段ですので、是非できるだけ早めにご確認されることを強くおすすめ致します。